鉄道アナリストの川島令三さんが、現場や車両の構造を詳細に検証した『なぜ福知山線脱線事故は起こったのか』(草思社)だ。事故を起こした207系電車は、台車枠と車体をつなぐ重い「ボルスタ(枕梁(まくらばり))」をなくし、左右の「空気バネ」で車体を支える「ボルスタレス」と呼ばれる軽量台車だった▼事故調査委員会は、事故が半径三百メートルの右カーブで、右の内側車輪が遠心力で浮き上がり、車両が左の外側へ傾く「転倒脱線」によって起きたとする。設計速度に近い高速で進入した結果、遠心力で空気バネの左(外)側が縮み、右(内)側が膨らんで大きく傾いた。左側の空気バネはカーブ進入前にパンクしていた可能性もあると川島さんはみる▼さらに先頭車はモーターのない軽車両で.その分、重心が高くなって浮きやすかった。JRは踏切事故などで高価なモーター系の損傷を防ぐため電動車を先頭車両にしていなかった▼営団地下鉄日比谷線の脱線事故もこの「ボルスタレス」台車で起きている。カーブに弱いこの台車は、私鉄の阪急や京阪、京浜急行では採用していない▼JR西日本は207系の後継として先月、321系導入を決め、事故の反省から先頭車両は電動台車に換えたが、ボルスタレス使用はそのままだ。
国土交通省の事故調査委員会が、8月中に尼崎事故に関する中間報告をだすという。
だが「社会的規制については必要最小限のものとする」「市場原理にゆだねられるべきものは市場原理にゆだねる」「鉄道事業者の自主性、主体的判断を尊重できるものとする」(運輸技術審議会答申)という発想で、鉄道輸送の安全確保に関する規制を徹底して緩和・解体したのは国土交通省自身である。どのような報告が出されるのか。本質的な問題はすべて闇に葬られ、結局は運転士個人の責任に一切が帰せられる可能性が高い。そんなことを絶対に許してはならない。
とくに、事故当初から指摘されていた軽量化車両やボルスタレス台車等、車両の構造上の問題点を指摘する声は、案の定ほとんど聞かれなくなっている。「ほとんどの新車に採用され、新幹線でも使われているボルスタレス台車を急カーブに弱いとするのはタブーのようだ」(鉄道アナリストの川島令三氏)と言われていたとおりだ。