from上海to東京

子育ての日々の断片を書き綴る

公教育でビューティフル・カントリー

工藤 「美しい国」というのは英語でビューティフル・カントリー…。何を言ってるか分からないわけです。美しい地球なら分かるんですよ、地球の環境を守るとかね。そしてもう1つ、彼から出てきたのが「戦後レジームからの脱却」でしょ。ずっと議論して分かってきたのは、安倍政権が考えているアイデンティティーというのは「誇り」とか「公」ということなんです。
それは、市場原理をベースにした「民」の展開とは一線を画するものです。自分たちの利益しか考えないのはよしとしない。権利しか教えなかった戦後教育や教育基本法は見直して、公共や、人と人の関係、より良い社会、そういうことを考えられる日本人よ、もう一度…。一言で言えば「公」なんです。
だから、教育再生会議を見ても教育の競争力をアップするバウチャー制がどこかに飛んでしまい、結局、「道徳」とかになる。彼がやりたかったのは間違いなく「公教育」の再生だったんです。だけど、そこに文部科学省や外野がからんできて、何がなんだか分からなくなり、最後は非行とかいじめ問題とかになっちゃった。
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表面上は小泉改革の継承者なのに、全く違う方向性の議論をしようというのですから。小泉改革の原理は、小さくて効率的な政府、競争社会、格差が拡大していく社会です。個人主義であり、実力があって努力した者が報われる社会。逆に言えば、実力がなくて努力もしない人は報われない厳しい社会です。英国のサッチャー首相以来の新自由主義の思想に基づいている。
NBO 全く逆ですね。
工藤 そう、逆なんですよ。彼の頭の中には違う政治の像がある。安倍さんが「俺は小泉とは違う政治をやりたいんだ」と言うことができれば彼の苦しみはもっと軽くてすんだかもしれない。最初は小泉改革の継承者を装っていましたが、今年1月26日の施政方針演説以降から伝統的保守主義の色合いが強く出るようになった。
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小泉政権は日本の古い岩盤を壊していった。壊しながら、次にどう再設計するかが問われた。それは社会保障も国と地方の関係も全部。しかし、小泉さんは答えを出すことができず、その役目が安倍さんに回ってきた。でも安倍さんがやりたかったのは、“戦後”であり、美しい国であり、モラルということだった。
NBO 小泉さんだったら、「モラル」ではなく「ルール」が必要だと言ったでしょうね。
工藤 そう。つまり安倍さんの戦後に対する思いなんですよ。地域やコミュニティーが美しい国につながる。小さな政府論で官僚システムを転変するよりも、地域が頑張ること、頑張る地域を応援することの方に重きを置くような。ふるさと納税なんておかしなものまで出てくる。政策体系ががらりと変わったのです。
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NBO そうですよね。突き詰めていったら、結局、米国との関係を見直すということになりかねない。
工藤 そうなるわけですよ。でも、そこには触れない。だって、覇権国アメリカとの間に今亀裂を生じさせたらこれからの日本はやっていけません。せいぜい、もっと主張する外交、米国べったりではない日本というスローガン止まりですよ。閣僚がイラク戦争反対を表明したりしても安倍さんは黙認した。政調会長が核問題を議論しても黙認した。安倍さんの戦後に対する思いがあるからです。