from上海to東京

子育ての日々の断片を書き綴る

中国には主義を押し付けるつもりはない

JMMふるまいよしこオバマの見た中国」

16日に上海科学技術館に集められた若者たちは同市内の大学で学ぶ500人という触れ込みだった。その彼らを前に、オバマ氏は30分間、米中関係の歴史を中心に未来の米中関係への抱負を語り、アメリカは10万人の中国留学生を受け入れていくと述べた。これまでのクリントン、ブッシュ前大統領たちと違って講堂の檀上ではなく、円形の会場の真ん中で360度の角度から中国人の学生たちが一挙手一投足を見つめる中、オバマ氏はさすがにアメリカ大統領選を勝ち抜いてきただけのことはある弁舌とパフォーマンスを披露した。これだけでも中国の学生たちには新鮮だったはずだ(たぶん、日本でも新鮮だろうけど)。
さらにそのまま学生たちに質問を促し、現場とインターネットによる質問を男女で交互に受け付けるという質問者の振り分けまで司会者ばりにやってのけ、指導者や政治家はお膳立てされたお膳に載るだけの、堅苦しい中国のしきたりに慣れている若者たちは、きっと楽しめたに違いない。その一方で、そんな若者たちの口から出たのは「あなたは中国に何を持ってきてくれたのか」「どのように他国の多彩な文化を尊重するのですか」「アメリカは台湾に武器を売るのでしょうか」といった形式の質問が中心だった。
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それは対話というより先生と学生の会話だった。「教えていただきたい」が前提にあり、たとえば国際間で何か起こるたびにまき上がる「嫌某国」的な挑戦的な意見はそこになく、「教えてください、大統領閣下」というそれで、残念ながら対話といえるものではなかった。その間、中米関係ウォッチャーの一人は、つぶやきマイクロブログ「ついったー」に「オバマの数々の対話集会の中でも最低の対話だ」という言葉を流していたくらいだ。それを盛り上げたのが、途中で大統領がジョン・ハンツマン・駐中国大使を指名してネットユーザーに代わって読ませた質問だった。
「3億5千万人のネットユーザーがおり、6千万のブログが開設されている国で、ファイアウォールが存在するということをご存知ですか? そして、我われは自由に『ついったー』を使えるべきではないのでしょうか?」
それは若者との対話集会であって、本来ならいくら中国語が達者な駐中国大使でも出る幕はなかったはずだ。しかし、オバマ大統領は途中でハンツマン大使を指名し、彼はこの質問を読み上げた。それは他の質問のように、在席していた学生たちに渡しても決して読まれることはないだろうと彼らが想定し、すでに大統領が壇上に登る前にシナリオができていたということだろう。
なぜ、この質問が読まれないのか――それはそこに座っていた500人の学生のうち、挙手によってオバマ氏自身が指名した質問者の幾人かが、実際には在学学生ではなく、すでに教鞭をとっている人物だったり、(かつて胡錦濤国家主席がトップを務めた)共産主義青年団のメンバーであったりしたことが、その後インターネットのいわゆる「人肉捜索」(ネット上でユーザー同士が情報をやり取りして個人の情報を暴き出すこと)で明らかになったことからも分かる。
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だから、北京での胡錦濤オバマ会談後の記者会見も生中継されず、また会見の席上でも記者からの質問すら受け付けられなかった。「中国指導者は即興的な談話を行わず、公開の場で質問に答えないという習慣」などではない。実際に最近でも温家宝首相などは会見の場で質問を受け付けるようになっているのだから。これはオバマが、そして上海の対話集会を受けて記者たちが何を言い出すのか(彼らは学生たちほど聞きわけがよいわけではないし)、分からなかったからだ。質問が怖かったのだ。