from上海to東京

子育ての日々の断片を書き綴る

原子力の技術と燃料をインドに供与

田中宇:自滅したがるアメリカ」から。

今回、アメリカがインドに対して与えることになった核の技術は、発電用の原子力技術ということになっている。しかし、インドはアメリカから得た技術を、計画中の高速増殖炉の建設に使うと予測される。高速増殖炉ではプルトニウムが生成されるので、インドはプルトニウム核爆弾の大量生産が可能になる。
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アメリカがインドに核技術を与えるのを見て、世界の他の国々が「NPTに入って核兵器開発をあきらめるより、インドのようにNPTに入らずに核兵器開発をしてしまった方が、結局アメリカは追認してくれるのだから得策だ」と思うようになり、こっそり核兵器の開発を始める国が今後増えそうだと予測されている。これは、NPTに基づく核拡散防止体制の崩壊につながる。
ブッシュ政権は内外からの批判に応え、核協定を結ぶまでの交渉の中で、インドにIAEAの査察を受けるよう求めたが、これはおざなりのものだった。米側との交渉の中で、インド側は、国内の22カ所の原子炉のうち、発電用の原子炉は査察させてもよいと表明し、いくつの原子炉が査察を受けるかが米印間の交渉の焦点の一つとなった。
ブッシュ大統領のインド滞在の最後の夜に、インド側は査察対象の原子炉を14カ所に増やすところまで譲歩し、そこで交渉が妥結した。核兵器の開発が、高速増殖炉を含む残りの8つの軍事用原子炉で行われていることは明らかで、そこを査察しないと意味がなかったが、ブッシュ政権は、これでインド側と交渉したことにしてしまった。(関連記事)
アメリカとインドの原子力協定は「これ以上悪いタイミングはないと思われるぐらい悪いタイミングで行われた」と指摘する新聞記事も出ている。米印間の協定は、アメリカを中心とする「国際社会」が、イランに圧力をかけて核開発をやめさせようとしているまさにそのときに調印されたからである。
イランはNPTに加盟し、IAEAの査察も受けている。IAEAは、イランが核兵器を開発していると考えられる根拠をつかんでいない。アメリカは、NPT体制に加盟しているイランを先制攻撃の対象にする一方、NPTに加盟せずに核兵器を開発したインドには、追加の核兵器を開発できる技術を与えている。これを見て、もともとアメリカに負けず強硬姿勢だったイランは「核開発は軍事用ではなく発電用なので絶対にやめない」という態度をさらに強めている。
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米印間の原子力協定は、インドを軍事的に強い国にすることで「中国包囲網」を強化する意図があるという指摘もあるが、これは当たっておらず、ブッシュ政権がインドとの核協定を正当化するためにマスコミにリークした説明だと思われる。親中国派のキッシンジャー国務長官は、インドへの核供与をやんわり批判する最近の論文で「アメリカの対インド政策は、しばしば(本当の目的は別のところにあると示唆する)ウインクをともなって、中国包囲網として正当化されている」と書いている。
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アメリカがインドに核技術を与える決定をしたのを見て、慌てたのはパキスタンである。ブッシュ大統領はインド訪問の後、3月4日にパキスタンに立ち寄った。パキスタンムシャラフ大統領はブッシュに「インドに与えたのと同じ核技術をわれわれにもください」と求めた。だがブッシュは「インドとパキスタンは、必要とするものも歴史も異なるので、当然違う対応になる」と答えて拒否した。インドは民主主義国だが、パキスタンは独裁国でイスラム原理主義が強く、核技術を渡すとアルカイダ核兵器を持つようになるのでダメだ、という意味である。
パキスタンの核技術は中国から譲渡されたものだと考えられているが、アメリカから核技術をもらえなかったパキスタンは、今後さらに中国との軍事技術関係を強化する可能性が高い。アメリカがインドにだけ核技術を与えたことは、パキスタンが中国に頼る傾向を強めることになり「中国包囲網の強化」とは反対方向に事態を動かしている。

ビジネスマンが動かす政治だからじゃないの。インドに原子力を売り込んで儲けたいヤツがブッシュ支援者にいるってこと。