from上海to東京

子育ての日々の断片を書き綴る

ステュディオス状態

dictionary』100号記念対談シリーズ6『佐藤雅彦(慶應義塾大学環境情報学部教授)×茂木健一郎(脳科学者) 人間が生き生きとしている状態を「ステュディオス」状態とします

幼児教育の現場で見ていると、いまの子供たちって、おもちゃばなれが激しいんですよ。とくに女の子。小学校の低学年ぐらいになると、もうおもちゃなんかよりもファッションや携帯電話やメールに興味がいっちゃう。なんだか、あの子たちは、人からどう見られてるかとか、誰それの知りあいだとかいう、人と人との関係性だけで自分の存在を確かめ始めているような気がするんですよ。自分の存在が人との関係性しかなくて、さらに「何とかというブランドを持っている」というモノとの関係性が附加され、ずっと育っていって20代後半ぐらいになって「あれ? 自分って、本当は何が好きで、何をやればいいんだろう?」って不安になって、でも、自分の中には何もない。何をやればいいのかもわからない。“自分”がからっぽなんです。
それはそうなんです、他人にどう見られるかとか、あるブランドを持っていたからという、「人とモノとの関係」だけで自己を規定してきて、自分の内側から湧きおこる“これが好きだ!”“これが楽しい!”っていう充実した状態である「ステュディオス」状態を経験せずに生きてきたわけですから。それを深く体験しないまま大人になって、実は気付けば空っぽの自分を、悲しいほどの真面目さで新興宗教や自己啓発セミナーなんかで埋めようとして、埋めきれずに自殺してしまったりする。
ほんとうになんでもいいんですよ、昆虫が好きとか、囲碁が好きとか、釣りが好きとか、なにか夢中になれる楽しいこと、「ステュディオス」状態になれることを持っている人って、自分を充填させる方法を知ってる人だと思うんです。