from上海to東京

子育ての日々の断片を書き綴る

ボブ・ディラン(1)

ボブ・ディラン自伝」から。

ヒットラーチャーチルムッソリーニスターリンルーズヴェルト――二度と匹敵する人物が出ないであろう巨人たち、よきにつけ悪しきにつけ自身の決断を信じた人々、単独で行動して他人からの承諾に関心がなかった人々、富や愛に頓着せず、人類の運命を支配し、世界をがれきの山に変えた人々。アレキサンダー、ジュリアス・シーザージンギスカンシャルルマーニュー、ナポレオンの伝統を引き継いで、彼らはご馳走を切りわけるように世界を切りわけた。髪をまんなか分けしていようが、ヴァイギングの兜をかぶっていようが、拒絶されることなく、侮られることのない人たち――地球を駆けめぐり、自分だけの地理学をひねりだした粗野な野蛮人たち。

一九五一年、わたしは小学校に入学した。学校でやらされた訓練のなかに、空襲警報が鳴ったら、ロシアの爆弾が落ちてくるから机の下に隠れるというのがあった。いつロシア人たちが飛行機からパラシュートで降下してくるかわからないとも教えられた。数年前、おじたちがともに戦ったのと同じロシア人たちだ。そのロシア人がわたしたちの喉をかき切り、わたしたちを燃やしつくす怪物になっていた。何かがおかしかった。こういう恐怖の暗雲におおわれた毎日は、子どもたちの生き生きとした心を奪う。銃を向けられて怖がるのと、本当は存在していないものを怖がるのとはちがうのだ。しかし、この脅威を大勢の人間が大まじめで信じこみ、それが伝染した。人はいとも簡単にこうした奇妙な幻想の犠牲者になる。