from上海to東京

子育ての日々の断片を書き綴る

噛み合わない議論

郵政民営化に関する特別委員会(7月29日)から。
横浜市長中田宏さん。

郵政事業は表面的には黒字を計上しているものの、見えない損失が生じているということが、これはいろんなところで指摘をされてきました。
 例えば、郵貯簡保についてでありますけれども、郵便貯金は、二〇〇三年の四月に郵政公社化において、郵便貯金への無償の政府保証、納税義務の免除、こうした民間金融機関との競争条件とは異なっている、官業ゆえの特典というものは残ったままになっています。ですから、民間の推計でも、一九九三年から二〇〇二年度、これは一九九三年度から二〇〇二年度、この間の十年間で五兆三千億円のある意味ではこうした分の特典が発生をしているというふうに計算がなされています。また、同様に、簡易保険についても、同じように民間の推計では、同じ十年間で二兆四千億円の特典があったということになります。こうしたことが、既に議論はなされていると思いますけれども、言わば隠れた税負担ということにもつながるということであります。

慶應義塾大学教授榊原英資さん。

よく、物の分からないエコノミストたちが、それでも国債で運用しているじゃないかというようなことを言うんですけれども、資産運用として国債を買っているということと、制度として公社公団に行くというのは、これ全然別問題です。資産運用として国債を買っているんでしたら、それは民間生保はたくさん買っていますよね。民間銀行たくさん買っています。当然、民間の金融機関だってこれはリスクは管理しなきゃいけませんから、リスクのない国債を大量に買うというのは、これは当然のことであります。民間が今やっているわけです。郵政民営化になっても同じことが起こると思います。ですから、この官から民へという議論は全くの誤解でございます。で、実は政府の人たちあるいは与党の方たちは分かっておられるんだけれども、それを言っておられる方がいるというのは私は大変不思議ですね。
それからもう一つ、民営化をすると効率化になるというんですけれども、通常やっぱり官のものを民営化すると効率は良くなるんでございますけれども、なぜ効率が良くなるかというと、これは新たな競争が発生して極めて厳しい競争下に立たされるからこれは効率化するんですね。ところが、郵政事業についても、郵貯簡保についても、もう激しい競争しているんです。先ほどヤマト運輸なんかとの競争をおっしゃいましたけれども、郵便事業についても極めて激しい競争を民間としていると。それから郵貯簡保についてはもう何十年も前から銀行、保険会社と激烈な競争をやっているわけですね。ですから、新たに民営化して競争が生まれて、それで効率化するというチャネルはないんですよ。もう既に激烈な競争をしている。
だから、今、郵便局のサービスがいいわけですよね。なぜいいかというと、競争に勝てないからです。民間との競争に勝てないから、大変効率化をしていると。民営化したらその競争が激しくなって効率化するという議論はここでは成立しないんですね。

エコノミスト紺谷典子さん。

よく公共事業だとか景気対策のせいだとか言われますけれども、公共事業は九八年以降激減しております。一方、財政赤字はそれ以降激増しているということでありまして、少なくとも公共事業が第一の犯人じゃないということはデータからも明らかでございます。第二に、景気対策なのかと。景気対策は一九九〇年以降全部で百三十兆ほど行われておりますけれども、いわゆる国庫支出のあった真水の部分というのはせいぜいが六十兆というのがほとんどのシンクタンクの推測でございます、推計でございます。
ところが、九〇年以降どれだけ国債が増えたのかというと、三百数十兆増えちゃっているわけですね。じゃ、残りの三百兆は何に使ったんですかということでございますね。何に使ったんでしょうか。税収不足を補うために使ってきたということですね。九〇年代の初め、日本の税収は六十兆を超えておりました。今四十兆台なんですね。森政権までの政権が十一年掛けて減税も含めて十兆減らしたんですよ。小泉政権は、当初のたった二年間でまた十兆減らしちゃったということなんですね。税収不足が赤字国債のここまで巨額に膨れてしまった原因であると。
じゃ、税収不足は何で起きたのか。法人税収が落ちたのはなぜでしょうか。景気が悪くて赤字企業ばっかり増えたからではありませんか。所得税収が、増えたのはどうしてでしょうか。国民所得が低下してきているからではありませんか。消費税収が落ちたのはなぜでしょうか。物が売れなくなったからではないですか。景気が悪いから財政赤字が大きくなってきたんです。景気が悪いから税収がどんどんどんどんおっこって財政赤字が大きくなってきたんですね。その問題は郵政を民営化すれば消せるんでしょうか。私はそうは思いません。根本的な原因が解決されていない。
行政改革であるという考えもありますね。本当に行政改革なんだろうか。
そもそも、この赤字をつくった原因は何なのかということさえ明らかじゃないわけですよ。特殊法人改革、財投改革だとおっしゃるんですけれども、一番効率的な財投改革、特殊法人改革は、財投機関そのもの、特殊法人そのものを見直していくということなんですね。まずはきちんと会計報告をさせるということではないですか。それで不公正とか非効率の原因を探っていくと。多くの方たちは、天下り、ファミリー企業の問題ではないかというふうにおっしゃっているわけですね。そこを手付かずのまま本当に行政改革なんかできるのかと。

慶應義塾大学教授深尾光洋さん。

政府による郵政事業の維持コストということを実際推計してみますと、法人税が非課税になっております。現在、郵政公社は、資本がある程度たまりますと、つまり郵貯の三%プラス千五百億円なりを超えると、納付金と、国庫納付金ということで四年に一回税金に当たるようなものを払う必要がありますが、しかし資本が低い間は税金を一切払わなくていいという特典があります。また、事業税、印紙税の免除、固定資産税の半額免除といったものがあります。
郵便局の振り込みのコストが安い理由の一つがこの印紙税でありまして、民間銀行ですと証書を、実際の振り込みの証書、証明を出しますと、それには印紙税、まあ張ってはおりませんが別納でお金を払っているということになります。そうしますと、この印紙税の違いというのが振り込み料金の違いになって、郵政省、まあ郵政事業の有利さということになっております。
また、預金保険機構への支払も免除されている。これは三ページの下に一覧表がございますが、預金保険料だけでも民間であれば二千億近いお金が要るわけですが、それを払っていない。あるいは、法人税であれば四千億程度は払う必要があると見込まれるわけですが、それを払わないで済んでいる。合計でいいますと、大体七千億前後、国民一人当たり六千円程度の郵政公社の維持コストが掛かっているということが言えます。
郵政事業の民営化の必要性ということをいいますと、郵政公社のままでは税や預金保険料など巨額の優遇措置、規制上の優遇措置を受けた郵便事業あるいは郵貯簡保を政府が運営し続けることになります。このために民間金融機関と郵貯簡保の競争は公正でないという状況になっております。そうなりますと、例えばWTOの観点からも、例えば政府の補助金を受けた金融機関が民間、生身の、税金を払っている民間金融機関と競争し続けるという観点から、将来問題になる可能性すらあるというふうに思っております。

JMMから。
経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員山崎元さん。

20数万人の独占企業を立ち上げるための時間稼ぎをしているという意味でも、郵貯簡保の縮小がスピーディーに行われないという意味でも、郵政民営化法案及びその路線上の郵政関連政策は明らかに「不合格」だったと思います。しかし、民営化を進めないよりは一歩進める方が「まだまし」だったでしょうし、今回の法案は、先ず形だけでも民営化して郵政職員の非公務員化を達成しておいて、今後に第二段階の徹底的な民営化を進めるためのワンステップとしよう、という二段階改革の第一段階目といえる性質のものであったのかも知れません。いわば「だまし討ち」に近い形ですが、強力な既得権を崩して効率化を達成する目的にあっては現実的な方法です。
ただし、郵政問題は何重にも錯綜しています。郵貯簡保財政投融資や国の借金の原資になっているという資金の流れの問題は、現在の郵政公社のままでも、既に財投預託義務が外れて自主運用になっているので、民営化と関係なく変えることが出来ます。たとえば、「官から民へお金の流れを変えるのだ」という目標なら、郵政公社の資産運用に於いて、たとえば「官」に回す比率に上限を設けるようにすれば、直ちに達成できるはずですし、財政投融資について金融検査を行っていくことで、過去の財投の負の遺産をあぶり出すと共に、今後の資金の流れを変えることができます。こうしたことをやるかやらないかが問題であり、民営化そのものは本当は大した問題ではありません。
ただし、民営化後の郵貯も同様ですが、郵政公社が巨大な資金の運用先をいきなり民間に振り向けるように仕向けることは、彼らが十分な運用能力(たとえば融資の審査能力)を持っていない以上、大いに危険であり、金融業界全体にとって迷惑でもあります。

山崎養世さん

財投問題とは、財務省を中心とする官の不良債権問題なのですが、郵貯を犯人に仕立て上げることによって、財務省特殊法人はその責任逃れができます。いま、財投の仕組みのなかで、財務省理財局が郵貯簡保、そして年金から360兆円(メガバンク4行の貸出金の1.5倍)もの資金を借りて道路四公団などの特殊法人に貸しています。30年以上前は優良貸出先だったのでしょうが、いまでは本州四国連絡橋公団のように、元本どころか利息も払えない破綻借入先が続出し、債務減免までしてもらっている始末です。貸し手は財務省であり、借り手は特殊法人等であり、その間の不良債権問題です。財務省への預金者である郵貯簡保や年金には直接責任はありません。ところが、郵貯が悪いということにすれば、貸し手も借り手も世間の追及を逃れられます。
つぎに、民間銀行の不良債権問題の責任も郵貯に転嫁できます。バブルの処理を怠った銀行、金融・財政当局、政治家によって、国民は38兆円もの不良債権の処理費用を負担してきました。その多くは国が立て替えています。これから銀行が返していかなくてはならないのですが、到底払えないでしょう。銀行と金融・財政当局の重大な責任です。ところが、郵貯は2007年以降、銀行の預金保険機構に強制加入させられます。今後、郵貯資金を民間銀行の不良債権処理の返済に充てることができれば、金融・財政当局と銀行の利害に一致します。
さらに、郵便局を銀行、保険会社、運送会社に分割してしまえば、財務省国土交通省の縄張りが増えます。こうしてみれば、郵政民営化は、これからさらに増える財政赤字の原因をわからなくし、銀行の不良債権の処理を押し付け、さらに権限を焼け太りさせることができるという点において、財務省特殊法人および銀行にとっては最良のシナリオ、という推理が成り立ちそうです。大蔵族(いまは財務族)である小泉さんとの合作というのも、推理として納得がいきます。