from上海to東京

子育ての日々の断片を書き綴る

WBC(2)

JMM『「WBCという成功体験」from 911/USAレポート』

私にとって興味深いのは、イチロー選手が今回獲得した成功体験です。
このタイミングで、このような形で成功を体験したということで、この天才かつ努力の人が今後どのような野球をしてゆくことになるのか、私には考えるだけで興奮させられるものがあるのです。
咸臨丸の渡米以来150年弱の間に、数え切れないほどの日本人が太平洋を渡って、アメリカの地を踏みました。日本とアメリカ、日本語と英語という異なったコミュニケーション様式を持った世界を、数多くの人が行き来しているのです。「アメリカ経験」、つまり文化の違いに気づく中で「自分とは何者であるか」を自分に対して説明しなくてはならないプロセスを実に多くの人が踏んできたということに他なりません。
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イチロー選手に関して言えば、「ダークサイド」とは言わないまでもある種の精神的危機を感じていたのは間違いないでしょう。チームの低迷する中、うまくベンチをまとめることができず、クリーンナップや投手陣との間もしっくり行っていませんでした。監督とのコミュニケーションも決してスムースではなかったようです。
このオフにTVドラマで「犯人役」をしたり、やや過剰なまでに哲学的な野球論を日本で出版したりという行動に関しても、そこには決して輝きはありませんでした。私は本気で「どこか他のチームへ行くべきだ」と考えていたほどです。それ以上に私には、日本からアメリカに移って仕事をする際に経験する心の揺れそのものをイチロー選手の言動には感じさせられていました。
WBC開幕後も、韓国を意識した「三十年」発言、更には対韓国戦敗戦後の「屈辱うんぬん」という過剰反応を見ると、下手をすると「ダークサイド」に行かなければ良いが、と本気で心配したぐらいです。仮にあのまま二次リーグで敗退していれば、誤審事件も後まで引きずったでしょう。あの事件は受け止めようによっては、日本人がアメリカを嫌いになる「裏切り」のパターンそのものになってしまうからです。
ですが、今回のWBCでの優勝、そして自身がチームリーダーとしてのコミュニケーションに成功したということは、何とも絶妙のタイミングでした。確かに優勝後の会見で、「日本代表チーム」から離れることへの淋しさを強く訴えていたあたりには、まだ感情的な揺れが残っているようですが、キャンプに戻るとすぐにオープン戦に先発して三安打、というあたりには、大きな飛躍の予感がします。

あれだけイチローがはしゃいだのにはこんな訳があったということか。