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子育ての日々の断片を書き綴る

ビッグスリーが消えると

NBonline小峰隆夫:やっぱりおかしいビッグスリー救済」から。

ビッグスリーが消えると250万〜300万人に失業が発生するという主張も私には疑問に思えます。
まず基本的なデータを確認しておきましょう。2008年12月の段階で、米国の自動車販売に占めるビッグスリーのシェアは47.7%、2007年のビッグスリーの雇用者数は約24万人です。では、ビッグスリーが破綻すると、なぜ250万〜300万人もの失業者が出るのでしょうか。
これに最も近い数字としては、Center for Automotive Researchが、ビッグスリーがなくなった場合、直接雇用で約24万人、間接雇用で約80万人、それ以外の波及で143万人、合計約247万人の雇用が失われるという報告を出しています。数字が極めて近いので、一般に250万〜300万の失業が出るというのは、この推計が基になっていると思われます。
では、本当にそれほどの雇用が失われるのでしょうか。この点については、経済学で登場する「部分均衡と一般均衡」という考えが役に立ちます。
部分均衡というのは、他の部分は変化しないと仮定して、変化した部分だけを見る考え方で、経済学ではできるだけ避けるべきだとされています。これに対して、他の部分への間接的な変化も考慮して全体としての影響を考えるのが一般均衡的な考え方です。ビッグスリーが破綻すると250万〜300万人の雇用が失われるというのは、典型的な部分均衡の考え方なのです。
なぜなら、ビッグスリーが消えてしまうと、全米の47.7%分の需要がそっくり消え、それに関係する雇用もまたそっくり消えてしまうと仮定しているからです。まず、ビッグスリーが破綻したとしても、その生産がそっくり消えることはないでしょう。出直してある程度の生産を再開することは可能でしょうし、設備やブランドが他の企業に買収されるかもしれません。また、仮にビッグスリーの生産が完全になくなったとしても、その分の需要は他のメーカーの生産によって埋められるはずですから、雇用がそっくり消えてしまうということもあり得ない話です。
250万〜300万の失業者が出るという主張は、ビッグスリーの生産と雇用が消えても、それ以外の部分は不変であり、ビッグスリーが抜けた穴を誰も埋めないという部分均衡的な仮定を置いた議論であり、経済論理の上から誤りなのです。こうした主張は、救済措置を得られやすくするための誇張された議論だと私は思います。