from上海to東京

子育ての日々の断片を書き綴る

エセ科学

田中宇:地球温暖化のエセ科学」から。

2月2日、国連の「気候変動に関する国際パネル」(IPCC)が、地球温暖化に関する4回目の、6年ぶりにまとめた報告書の要約版「Summary for Policy Makers」を発表した。
この概要版報告書は、海面上昇や氷雪の溶け方などから考えて、地球が温暖化しているのは「疑問の余地のないこと」("unequivocal"、5ページ目)であり、今後2100年までの間に、最大で、世界の平均海面は59センチ上昇し、世界の平均気温は4度上がると予測している。(13ページ、6種類の予測の中の一つであるA1Flシナリオ)
また、過去50年間の温暖化の原因が、自動車利用など人類の行為であるという確率は、前回(2001年)の報告書では66%以上を示す「likely」だったのが、今回は90%以上を示す「very likely」に上がった。確率の上昇は、実際の気候変動をシミュレーションするプログラムがバージョンアップされて信頼性が高くなったからだという。(関連記事その1、その2)
この概要版報告書の発表を受け、世界の多くの新聞が「二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を急いで規制しないと大変なことになるということが、これで確定した」「温暖化について議論する時期は終わった。これからは行動する時期だ」「まだ議論に決着がついていないという奴らは、ホロコースト否定論者と同罪だ」といった感じの記事を流した。
IPCCの発表とほぼ同時期に、地球温暖化問題を以前から推進してきたアル・ゴア元副大統領が出演した映画「An Inconvenient Truth」(不都合な真実)の宣伝が開始された。この映画では、地球温暖化によって世界の海面が6メートル上昇し、低地にあるフロリダやオランダや上海が洪水に見舞われる光景が描かれている。
これらの動きより数カ月前の昨年10月末には、イギリスの経済学者ニコラス・スターン卿が、英政府を代表して、地球温暖化への経済的な対策を提案する論文「スターン報告書」を発表している。この報告書は、地球温暖化による海面上昇が世界各地で大洪水を発生させて2億人が家を失い、温暖化の影響で干ばつになり発展途上国の飢餓がひどくなるなど、温暖化を放置することは、世界経済を毎年少なくとも5%ずつ破壊する悪影響をもたらすと分析している。
・・・・
だがしかし、この運動を裏づけるはずの「三位一体」は、実はいずれも正しくない。
世界のマスコミでは、今回のIPCCの概要報告書は、人類が排出する二酸化炭素などのせいで温暖化がひどくなっているという仮説について、前回2001年の報告書よりも、より確定的な根拠を示していると報じられている。
だが実は、今回の報告書は、温暖化について最重要の点である海水面の上昇予測について、前回よりもひどさの少ない分析をしている。デンマークの著名な学者であるビヨルン・ロンボルグ(Bjorn Lomborg)によると、2100年までの約100年間の海水面上昇の予測値の平均値は、前回の報告書では48・5センチだったが、今回は38・5センチに減っている。
ロンボルグによると、海面上昇率の予測値は、1980年代にアメリカ政府の環境保護局は「2100年までに海面は数メートル上昇する」と予測していたが、その後IPCCが90年代に「67センチ」と予測し、2001年には48・5センチ、そして今回は38・5センチになった。予測値は、だんだん少なくなっている、つまり海面上昇による危険は、年とともに減っている。海水面は20世紀中に、人類が問題にしない間に20センチほど上昇している。今後あと40センチ上昇したとしても、大した問題ではない。
ゴアの映画の前提である「6メートルの海面上昇」は、80年代の古い数字をあえて今も使うことで成り立っている。今では否定されている昔の数字を使わないと、扇動的な内容に仕立てられないのである。
今年1月、ゴアは、映画の宣伝でデンマークを訪問したとき、ロンボルグと公開対談する予定になっていた。だがゴアは対談の直前、ロンボルグはゴアの意見に反対だという理由で、対談をキャンセルしてしまった。
・・・・
IPCCには130カ国の2500人の科学者が参加している。ほとんどの学者は、政治的に中立な立場で、純粋に科学的な根拠のみで温暖化を論じようとしている。しかし、ロンボルグによると、問題はIPCCの事務局にある。事務局の中に、温暖化をことさら誇張し、二酸化炭素など人類の排出物が温暖化の原因であるという話を反論不能な「真実」にしてしまおうと画策する「政治活動家」がいて、彼らが(イギリスなどの)政治家と一緒に、議論の結果を歪曲して発表している。