from上海to東京

子育ての日々の断片を書き綴る

5カ年計画

田中宇:中国・胡錦涛の戦略」から。

中国で貧富格差が拡大して市民の不満が高まっている、ということが世界に報じられる傾向が頂点に達したのは今年8月、公安省の周永康大臣がロイター通信や香港の新聞の取材に対し「中国で一年間に全国で発生した100人以上の規模の抗議行動は、一昨年は5万8千件だったが、昨年は7万4千件に増えた。昨年は380万人が抗議行動に参加した」という統計数字を明らかにした時だった。
このニュースは驚きをもって世界のマスコミをかけめぐり、それ以来、中国の政治情勢を分析する欧米や日本などのマスコミの「解説記事」の多くに「7万4千件」という数字が使われ「こんなに多くの反政府行動が起きているのだから、中国の体制は間もなく崩壊するかもしれない」といった論調の記事が目につくようになった。
しかし、そのような記事が世界を一巡した後、別の疑問が出てきた。「なぜ中国政府は、抗議行動の増加を、わざわざ外のマスコミに伝えたのか」という疑問である。
・・・・
それなのになぜ中国政府は、わざわざ危機感を煽るようなことをするのかと思っていたら、最近その謎が解ける出来事があった。中国の胡錦涛政権が、10月中旬に開いた共産党の代表者会議(5中全会)で、これまで大都市の経済を中心に政府がテコ入れしていたのを転換し、今後は農村経済へのテコ入れを強化するという「5カ年計画」を決定したのである。
中国では、たとえば役人の腐敗を厳しく取り締まる新政策を発表する前には、新政策が必要なんだと内外の人々に思わせるかのように、地元の役人の腐敗を暴露する記事が中国各地の新聞に掲載される。腐敗取り締まり強化の法律を発布するだけでは、役人たちが反発し、共産党内で現政権に不満な派閥のもとに結集して政治闘争が起きる。その傾向を軽減するため、マスコミに腐敗暴露の記事をどんどん書かせ、現実の一部を暴露することで世論を動員し、新政策の実施がスムーズに行えるようにする。
同様に、公安大臣が抗議行動の増加をマスコミに発表したり、中国国内の新聞に地元の暴動についての記事が散発的ながら掲載される傾向が強まったことは、来年からの新5カ年計画を円滑にスタートできるよう、地方の農民は不満を持って強めているんだと、中国内外の人々に思わせる効果があるのではないか。新しい5カ年計画では、大都市への政府投資が減るということだから、大都市の党幹部は反対する。中共中央は、それを抑えるため、農村で暴動が増えているということを、あえて宣伝したのではないかと思われる。
・・・・
先日の共産党代表者会議(5中全会)で、胡錦涛政権は、国内貧富格差を縮小する農村テコ入れ策のほか、台湾問題や、国際社会における地位向上を目指す戦略などを議題に載せた。しかし、350人の代議員の関心は、圧倒的に国内貧富格差の問題に集中しており、台湾問題や国際社会との関係の問題は「そんなことをしている暇があったら国内問題に注力せよ」という感じの反応を受け、あまり討議されなかった。